『複業先生』を導入したいけど、実際どんなメリットや効果があるのかわからない…そんな学校の先生は多いのではないでしょうか。
- 『複業先生』を知ったきっかけ
- 『複業先生』の導入メリット
- 授業を受けてからの生徒・先生方の変化
今回は上記のポイントを押さえ、これまで計8回『複業先生』に授業を依頼している北海道・東部に位置する浜中町立霧多布中学校の沼田校長先生にお話をお伺いしました。
自然豊かな北海道・東部にある中学校|地域と『複業先生』のつながりとは?
霧多布中学校の学校理念を教えてください。
学校教育目標には「高い知性」 「豊かな情操」 「固い意志」 「強い身体」の4つを掲げています。令和5年度の学校経営理念は「自己のよさを発揮し、地域社会の豊かな未来を創る人が育つ学校」です。
学校での学びを通して、自分で未来を切り拓く資質・能力を獲得し、生涯にわたって地域社会の豊かな暮らしを創造できる人材を育てていきたいと考えています。
霧多布中学校では、地域との協働が盛んに行われているとお聞きしました。具体的にどのように地域との協働を進めているのでしょうか?
地域事業所のご協力による職場見学や体験実習、町役場と連携した津波防災避難訓練や防災教育などを実施しています。
さまざまな活動を実施されているんですね。
霧多布中学校は、近くに霧多布湿原センター(湿原センター:湿原がもつ豊かさや価値を多くの人々に伝える活動を行うセンター)があり、令和3年3月30日に指定された厚岸霧多布昆布森国定公園も校区に隣接しています。自然豊かな環境も地域との協働に活かしています。
自然の豊かさを活かして、専門的な知識がある方にお話を聞いたり、自然の豊かさに触れる機会をつくったりして、地域の方々とかかわる機会を設けています。
昨年は、エゾモモンガの巣箱づくりも行いました。子どもたちは、自分たちがつくった巣箱をエゾモモンガが利用している様子を観察できたことで、自分たちの行動が自然に与える影響を実感できたと思います。
地域社会と『複業先生』のつながりを感じることはありますか?
はい。『複業先生』は、地域に新しい風を吹かせてくれていると感じます。
北海道の学校は広大な土地に立地することも多く、本校もそのひとつです。近隣の学校といっても徒歩でいける距離にはありません。
一般論として、孤立した地域にはなかなか新しい考えや文化が浸透しないと言われていますよね。人間が自己の価値観を形成するであろう思春期に体験した新しい経験や刺激的な大人との対話は、将来大人になったときの仕事や地域への貢献に大きく関係してくるのではないかと考えています。
その点で、北海道の地域ではなかなか出会えないユニークな大人(複業先生)に出会えることは、子ども達や地域に刺激をもたらしてくれていると思います。
複業先生で地域に「新しい風を吹かせる」こともできるんですね。
そうですね。以前、関西方面出身の先生の一言が印象に残っています。「北海道にはこんなにたくさんの魅力があるのにもったいない。もっと上手にPRするとええのに」とお話をいただいたことがありました。
北海道民は、おおらかな部分はあるけれども、私自身もそうなんですが自己主張については苦手な面もあると思っています。地域を変えていくには、様々な価値観に触れることから一人が変わり、そこから他者に広がって行くような変革が大切ではないかと思っています。
まずは子どもたちの価値観を変えていくことで、保護者に伝わり、そして地域全体が活性化することが理想であると考えています。
「何ごともまずはトライ」計8回活用いただいた『複業先生』を知ったきっかけ
『複業先生』を知ったきっかけを教えてください。
経済産業省の事業『探求的な学び支援補助金』を通して知りました。これは教育委員会からの情報提供でした。お話を伺い「せっかくのよい機会なのでトライしてみよう!」という気持ちからです。
これまでどのくらい複業先生をご活用いただきましたか?
計8回分の授業を依頼しました。異文化理解を深める授業やプレゼンテーションのコツをシェアしていただく授業など、さまざまな授業を依頼しました。
『複業先生』を導入いただくにあたり、懸念点はありませんでしたか?
そうですね、とくにこれといった懸念点はありませんでした。
私自身、以前から学校単独での学びは「閉ざされた教育」に陥るリスクを感じていました。特定の分野については専門家にお話いただく方が子どもたちにとってより説得力が増しますよね。その道のプロにお話いただくことで生徒にとって魅力的な授業を提供できると思っています。
複業先生が開かれた教育を提供し、子どもたちに飽きない教育を提供できていると思うと、とても嬉しく思います。
そうですね。また本校は幸いにして規模が小さいこと、私自身が社会科教員だったため、日頃からさまざまな外部人材をお呼びしていたこともあり、比較的スムーズに導入できました。
ただ学校内で反対の声が多く、『複業先生』の導入に踏み切れない場合、どうしたら良いと思いますか?
『複業先生』の導入は、「子どものためであること」を踏まえた上で、4つの段階があると考えています。
①生徒にとってのニーズを把握する
生徒・保護者・先生それぞれの声を聴き、導入の目的を理解してもらうことが大切だと考えています。
②メリットを提示する
『複業先生』を導入することで、開かれた教育を提供できるだけでなく、教員の業務を軽減することも可能だと思います。実際多少の手間は生じますが、手間を上回るメリットがあると実感しています。
③プロセスを明確にする
導入に係る手順を明確にすることで、先生方の不安を軽減できると考えます。
④校内の担当を明確にする
校内で担当を決めれば、担当が異動した場合でも引き継ぎができます。システム化すれば、属人化せず新しいサービスでも継続的な活用が可能だと思います。
先生たちの意見を取り入れ、上記の段階を構築できると、殆どの学校でもスムーズに導入できるのではないかと考えます。
貴重なご意見ありがとうございます!
罠猟師や現役の医師が登壇!生徒だけでなく先生も変化した『複業先生』との出会い
沼田先生が感じる『複業先生』導入のメリットはありますか?
普段の生活では出会うことができない大人と関われるため、子どもたちの人生観や価値観の幅が広がることです。
『複業先生』との出会いは「当たり前を疑い、より良いものを生み出そうとする創造的な思考を身につける」第一歩につながっていると考えています。
これまでの経験からお話しますと、一般的に都市部から離れた地域は、ややもすると「子どもたちがかかわる大人=学校の先生と地域の方々」と限定的になってしまう傾向があります。また子どもたちだけでなく、わたしたち大人(先生)も、多様な価値観や考え方を持った人と出会う機会が少ないことが課題であると感じています。
そうなると先生方も、『複業先生』と出会うことで何か影響を受けられているのでしょうか?
先生たちも生徒たちと同様、自己の世界を広げられていると思います。ある先生は、『複業先生』から刺激をもらい、『複業先生』が取り組んでいる地域おこしの実際を自分の目で見てみようと、2泊3日で島根県に出向き、実際に『複業先生』にお会いして、フィールドワークを行いました。
素晴らしい行動力ですね。
この素敵な出会いは、移動を伴わないオンラインだからこそ実現できたと考えています。
これまでで一番印象に残っている授業はありますか?
どの授業の講師も素晴らしかったため、ひとつに決められないのが正直な感想です。
すべての授業に関して共通していたこと。それは、複業先生ご自身の体験や実践に基づいたお話だったため、非常に説得力があったことです。
また、何よりも感動したのは、『複業先生』が授業の直前まで、ご自身のお仕事の合間を縫って資料作成に励んでいる姿です。何事にも一生懸命に取り組む『複業先生』の姿勢から、一人の社会人として、多くのことを学ばせていただきました。
『複業先生』の仕事に対する姿勢は素晴らしいですよね。これまで子どもたちの行動変化が見られた授業はありますか?
「狩猟から考える食について」をテーマに罠猟師の複業先生に授業をしていただいたときのことです。
授業を受ける前は給食を残す子どもが多かったんです。4時間目の授業だったこともあり、その後の給食で「残そうと思ったけど、あの授業を受けた後だからなぁ」と言って、嫌いな食べ物にもチャレンジしたり、残そうとしたけど頑張って完食したりする様子が見られました。授業後、給食を残す子どもが目に見えて減りました。
素晴らしい行動変容ですね。
また現役の医師として活動されている複業先生に登壇いただいた際「生命」について考える機会も生徒の価値観の変容につながったのではないかと感じています。複業先生には医療現場での経験だけでなく、「人の生命を預かる」医師の責任の重さについてもお話していただきました。
医療現場で日々命の尊さと対面している『複業先生』にお聞きした話は、重みが異なりますよね。
そうですね。医師の方はお忙しく、教育現場にお招きすることは難しいと思うのですが、『複業先生』のサービスを通して貴重なお話をお聞きできたことはとても感謝しています。
今後『複業先生』に依頼してみたい授業はありますか?
実際に本校に来校していただき、対面で交流する機会をつくりたいです。プレ発表を聞いていただいたり、「キャリア教育」をテーマに『複業先生』にインタビューさせていただく機会をいただけたりしたら嬉しいです。
ぜひ実現させましょう!今回は貴重なお話をありがとうございました!