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【インタビュー】今、教育の創り手になるVol.2「半径数メートルの世界で生きる子どもたちに、“あの日のiPhone”のような体験を届けたい」

社会に開かれた、次世代の教育のあり方が模索されている、昨今。異なるフィールドから、新たな教育の「創り手」側に飛び込もうとしている人もいます。このインタビューではLX DESIGNの仲間を紹介し、その素顔、本人を突き動かす動機や挑戦にかける思いに迫ります。

今回は『複業先生』サービスのテックリード、すなわち技術・開発チームを率いる役割を担う工藤卓也(30)を取り上げます。大手企業に勤務しエンジニアとして働く顔も持ちながら、LX DESIGNではCTO(Chief Technology Officer /最高技術責任者)として、システム構築に欠かせない存在です。GIGAスクール構想、プログラミング教育の必修科など、教育現場でも時代に即した変革が進む中、現役エンジニアの工藤が考える「学校の外にいる自分たちだからできること」について話を聞きました。

片手におさまる小さな機械が、世界と自分を結ぶ“扉”だった

「きっとこれから、時代が変わる」

高校2年生の工藤卓也(以下、工藤)が出合い、その後の人生を変えたもの。それは当時、世に出始めたばかりのiPhoneでした。

「たとえばゲームをするのにも、これまでは、まずおもちゃ屋さんに行ってゲーム機を買うところから始めなければいけませんでした。それがiPhoneの登場で、スマホ1台あれば好きなアプリをダウンロードして、気軽に体験できるようになった。さらには初心者であってもアプリさえ開発できれば、簡単にアプリストアに置くことができて、世界中の人に使ってもらえる可能性すら生まれた。革命的なことが起きたと思いました」

人差し指ひとつで、いくらでも自分の世界を広げることができる。片手におさまる小さなiPhoneが、工藤少年の目には、遠く離れた世界と自分とを結ぶ“可能性の扉”のように見えていたのです。その原風景は、現在、自分が取り組むLX DESIGNでの仕事、すなわち「社会に開かれた教育」の挑戦にも重なるのだといいます。

「中学・高校の頃は行動範囲も狭いですし、自分の目に見える範囲内で知ろうとする、考えることが多いじゃないですか。本当は、学校の外にとんでもなく広い世界が広がっているんだけど、そのことになかなか気づけない。だから若いうちに、学校の外の世界を感じさせる何かと出合うことが大事。僕にとってのiPhoneとの出合いのように、自分の可能性を広げるような機会、衝撃を受けるような体験を、多くの子どもたちに届けるには、ITの力が必要だと思うんですよね」

***

高校卒業後、情報系の大学に進学した工藤は、大学生のうちから自分でアプリをつくるようになりました。

「趣味でつくったのは、たとえば簡単な目覚ましのアプリとか。友達何人かで起床時間を設定しておくと、全員が止めるまで鳴り続けるというアイデアを考えました。“連帯責任で起きるための”アプリですね(笑)」

あるとき、大学の講義で自治体のサイトや観光用のアプリをつくることに。札幌出身の工藤は、大学のある函館エリアをあらためて観察して、さまざまな課題に気づきます。

「課題といっても自分自身の体験から見つけたことばかりです。たとえば函館に来た時に衝撃を受けたのは、バスの本数が少ないのに、なかなか時間通りにこないエリアがあること。実際、なかなか不便だった。それならGPS等の位置情報データを使って、バスの現在地や乗車時間の目安がすぐにわかるようなアプリはつくれないかな、と考えて提案してみたこともありました」

課題を見つけて、解決するためのアイデアを考え、それを実現するためのシステムをつくってみる。こうした作業を繰り返すうちに、「ITの力を使って、函館の町を盛り上げたいという想いが芽生えてきた」と工藤は語ります。

「ITエンジニアリングのおもしろいところは、アイデアが頭の中だけで完結せず、実際にシステムやアプリといった目に見える成果になること。『きっとこういうものがあったら便利なはずだ』『ひょっとしたら町が変わるかも』といった思いが自分の手によってどんどん形になっていき、それを人が使ってくれて、また新たな発見がある。そうした実践のサイクルがすごく面白かったんです」

0からシステムを作る高揚感と「頼ってもらえる」喜び

学んだ技術を、世の中の課題解決に活かしたいと考えるようになった工藤。大学卒業後は株式会社LIFULL(以下、LIFULL)に就職し、不動産・住宅情報サイトのエンジニアとして働く日々が始まりました。

LX DESIGNを知ったのは、LIFULL社主催のイベントにLX DESIGN代表の金谷智が登壇したことがきっかけでした。自身の経験から、子どもの頃の体験や出合いが大切だと考えていた工藤は、金谷の考える『複業先生』サービスの構想を興味深く聞いたといいます。連絡先を交換したのを機に、金谷からたびたび相談を受けるようになりました。

『複業先生』の立ち上げ当初で、発注のやりとりやデータ管理などの仕組みはまだ整っていなかった。それで僕に『こういうことをやりたいんだけど、どう思う?』『どうすれば実現できるかな』といった連絡がたびたびきたんです。メッセンジャーでやりとりしているうちに『ちょっと話そう』と電話で話すことも多くて」

本業で忙しい日々を送っていた工藤でしたが、金谷からたびたび相談を受けた当時のことを「僕、単純に嬉しかったんですよ」と笑顔で振り返ります。

「もともと興味を持っていた領域だったこともありますが、0からシステムをつくっていくスタートアップならではの挑戦にもワクワクしました。それに、僕を頼ってくれているんだなと思うと、嬉しくて」

工藤は正式にLX DESIGNのメンバーとして複業を開始しました。2021年4月には、エンジニア組織を社内に立ち上げて、『複業先生』のシステム開発を本格的に始動。プロジェクトを円滑に推進させる役割を果たすプロジェクトマネージャーとしての仕事から、エンジニアの採用まで工藤が担いました。

『複業先生』は教育特化型の、外部人材マッチングサービスです。多彩なキャリア、経験を持つ外部人材が複業先生として登録されています。まずは、どんな複業先生がいるのか、そのプロフィールやできることを学校の先生方が閲覧しやすいような機能に絞ったシステム開発をすることに。

「実現したいことはたくさんありましたが、まずは機能を絞って短時間で開発・リリースすることを重視していました。実際に使ってもらって、利用者の声を聞きながらその都度改善を繰り返していくほうが、実態にあったシステムになると思ったからです」

開発メンバーは工藤を含めて3名。全員が別に仕事を持つ“複業”エンジニア。それでも工藤が考える優先順位やこだわりを徹底した結果、エンジニア組織結成から8ヶ月後の2021年12月に、新しいシステムをリリースすることができました。

「リリースの瞬間は他のメンバーにも立ち会ってもらって、なんだかお祭り騒ぎに(笑)。僕自身、達成感と『これから使ってもらえる』高揚感を味わっていました」

プログラミング、本当は何が楽しい? プロが学校現場に出向く意味

リリース後の現在も、現場の先生方や複業先生の声を聞きながら、どんな機能が必要かを考えてアップデートしていく作業は続いています。2022年10月には金谷の故郷である富山にLX DESIGNのメンバーが集まり、現場の先生方へのヒアリングも行いました。

「実際に授業を行う先生方にお話を聞くと、新たな課題がたくさん見つかりました。学校の実態に合うような検索方法、目的や求めるものに応じて先生方が複業先生を検索・依頼しやすい仕組みなど、新しい機能のアイデアを膨らませているところです」

実際に現場で教鞭を取られる先生方を目の当たりにして、改めて「学校の先生は本当に忙しいんだ」と、先生方の働き方に驚いた工藤。

「自分が生徒のときには見えなかったものが、今なら想像できるような気がします。やることも多く、教える内容もどんどん変わっていく中で、先生方は絶えず新しいことを学び続けなければいけないんですよね」

昨今の「新しい学び」として象徴的な、ICT教育やプログラミングといった領域のいわば専門家である工藤は、自分自身の経験を学校教育にどのように活かせるかも模索します。

「もしかしたら、プログラミングは難しい、なにを教えていいかわからないと考える先生方もいらっしゃるかもしれません。でも僕ら、実際に日々の仕事で活用している立場からすると、プログラミングってとても楽しいものなんですよ。

ただし、コードを覚えるとか、ただ書くだけではつまらないと感じる人がほとんどでしょう。プログラミングの醍醐味って、やっぱり、自分が思い描いたことが実際に形になるところです。まずは、自分が思ったように動くと嬉しい。教室で『アプリつくってみよう』なんて声があがったら、少し勉強すれば子どもでもつくれる。たとえ簡単なものであっても、実際に形になって動けば、学校の外にいる誰かに使ってもらえるかもしれない。頭で考えているだけのアイデアでは終わらず、実際に動き出し、広がっていくことにワクワクするんです。

そういう実践的なプログラミングの楽しさは、仕事として日々やっている僕らだからこそ伝えられることがあるかもしれない。ビジネスにおいては、専門的な領域の仕事は専門家にお願いするのが一般的です。“よくわからないものは、わかる人や、その楽しさを知っている人にお願いする”といった行為が、学校現場でも広く一般的になってもいいんじゃないでしょうか。実際に学校現場に足を運ぶと、僕らにできることがまだまだあると感じました」

半径数メートルの狭い世界から、自分を、まだ見ぬ広い世界や新しい学びの場へと連れ出してくれた。“あの日のiPhone”のような体験を、今度は、届ける側に。それが工藤の挑戦です。

取材・文/塚田智恵美


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