この記事では、2022年9月21日に島根県出雲市立大津小学校で行われた「探究活動」をご紹介します。今回の『複業先生』に講師として登壇したのは、生徒と同じ大津小学校出身でもある板倉氏。
LX DESIGN(以下:LX)が提供する学校と外部人材のマッチングサービス『複業先生』を通して、研究者として活動している板倉氏が「研究者とはどういう仕事なのか」をテーマにお話しされました。
<複業先生プロフィール> 板倉光 島根県出雲市出身。東京大学大気海洋研究所助教。長崎大学水産学部卒業後、東京大学大学院にて博士課程修了。博士(環境学)。神戸大学や米国メリーランド大学での研究員を経て現職。魚の回遊生態や気候変動に対する応答機構を研究。最近ではふるさと島根県の神西湖や宍道湖での研究も展開し、自分なりの地元貢献を模索中。三児の父。趣味は筋トレ、好きな食べ物はたこ焼き(ただし、大阪風)。友人に名前の「板倉光」が「バンソウコウ」と読むと教えてもらって以来、小学校での講演の掴みに毎回使うも絶賛すべり中。
子どもたちは興味津々!「ウナギの研究を行う研究者」とは?
研究者とは何をしている人なのか?現在ウナギの生態研究を行っている板倉氏。自身のキャリアを踏まえて、研究者とはどんな職業なのかを語ります。
「研究者といえば、白衣を着て研究している人をイメージされるかもしれませんが、僕の場合はそのイメージとは少し異なると思います。」板倉氏によると研究者とは言っても、多種多様だそうです。
また講義の前半は、板倉氏から勉強と研究の違いについて説明がありました。
「勉強とは、他の誰かが発見したり考え付いたりしたことを教科書や先生を通して、知識として学ぶことです。一方、研究とは『知識』を生みだすことを指します。誰も知らないことや解明されていない問題を明らかにすることや知らない分野を広げることが研究です。しかし、研究を行うには、世の中では何が知られていて、何が知られていないのかを理解するために勉強する必要がありますね。」
勉強と研究との違いだけではなく、その関係性も話すことで生徒たちの理解も深まっている様子でした。
釣り好き・バスケ好きな少年が「ウナギの研究者」を目指した理由
続いて、板倉氏が研究者になった経緯に移ります。板倉氏は幼少期からのエピソードを交えながら、研究者になった経緯を語りました。
板倉氏は、もともと釣りが好きで毎日のように池や川に行っていたこと、小学校6年生の時に歴史にハマったこと、学生時代はバスケットに夢中になっていたことを話します。
しかし、ここまで研究につながるような話はひとつも出てきません。意外にも板倉氏は、はじめから研究者になりたかったわけではなかったようです。研究者へ進む針が動き出したのは部活を引退してから。進路を決める際、水産学部への進学を視野に入れたことがきっかけとのこと。
「正直、部活を引退するまで将来については何も考えていませんでした。進路をどうするか迷っていたところ、父が水産学部を勧めてくれたんです。『お前は魚が好きだから』と。バスケ部の監督からは教員を勧められましたね。
しかし、担任の先生に相談したところ『全部無理だよ』と言われてしまいました。ただ、部活や生徒会、運動会での活躍から面接でなら可能性があると言われ、面接だけで長崎大学の水産学部に入学しました。」
長崎大学の水産学部に入学したものの、板倉氏はショックを受けたと語ります。
「水産学部に入ったら、自分より魚好きがいっぱいいて。正直自分が魚好きではないかもとすら思いました。大学でもバスケ中心の生活でしたが、上には上がいることを知りました。」
大学卒業後は大学院に進むことにしましたが、大学の大学院へは成績が理由で行けず、他大学の大学院に進みます。そこで出会ったのが「ウナギ」です。
「大学院で研究をすることになりましたが、ここで初めてこれまで勉強してこなかったことを恨みました。しかし、昔からの魚好きとバスケット部で得た努力する習慣で頑張れました。」
大学院で研究やウナギの面白さを知った板倉氏は、進路を決めるにあたり、あることに気づいたそうです。
「教科を教えるより、専門分野を大学生に教えた方が楽しいんじゃないか」
研究の楽しさや自分の気持ちに気づいた板倉氏は、研究者になることを決めました。板倉氏によると、研究者が書いた論文は、厳しい審査を経て学術誌に掲載されるため、掲載されることが決まったらとてもやりがいを感じるとのこと。
例えるなら、スポーツの試合で格上のチームに勝ったときと同じ感覚を得るそうです。「自分が最初に知るチャンスがあること」「自分が死んでも論文は残り続けること」「世界レベルと触れ合えること」などのメリットがあるとも語りました。
好きなことは変化したっていい|自分の興味があることを突き詰める大切さ
講義の後半、板倉氏は研究内容と興味を持って突き詰めることの大切さを語りました。
野生のウナギを研究している板倉氏。大学院に入って右も左もわからない頃、研究室の手伝いで調査航海に参加した2011年に世界で初めて天然ウナギの卵を採取できたそうです。
生徒には、次の質問を投げかけました。「宍道湖のウナギはどこで生まれたと思いますか?」
答えは「太平洋」とのこと。多くの生徒が宍道湖と思っていたため、どよめきが起こりました。ウナギは海で生まれ、川と海を行き来する「通し回遊」をするそうです。続いて2つ目の質問です。
「ウナギは海から川に入ってきますが、最終的にどこに住んでいると思いますか?」
川の河口や上流、全体といった選択肢がある中、答えは「全体」でした。この解答にもどよめきが起こります。また板倉氏はウナギの調査を行う中で、昔抱いていたある疑問を思い出したそうです。
「なぜ陸にいるミミズで魚が釣れるのだろう」
この理由を調べるうちに、ミミズはウナギの筋肉に好影響を与えていること、降雨があると陸に出てくる習性があること、雨で川に流されたのちウナギの餌になることなどがわかったそうです。板倉氏はこのように研究者には疑問に感じ、それを追求することが求められていると続けました。
講義の最後に板倉氏は、次の言葉を生徒に贈りました。
「魚好き少年がバスケ好き少年になったけど最終的に魚博士になりました」
板倉氏は、バスケットで努力する習慣がついたことが研究にも活きていると話します。また、興味を持つ対象は変わるかもしれないが、どんなことでも突き詰めることが大切であるだけでなく、突き詰めて好きになると、努力しているとすら感じなくなると語りました。
努力したら夢が叶うことを知った|高評価を得た生徒の感想とは
授業後、生徒からは以下のようなさまざまな感想が寄せられました。
- 夢は諦めずに努力すれば叶うということが分かった
- どんなことでも努力すればいい結果につながる
- 1つめはうなぎが海にも行くこと。2つめは、成績が悪くても努力すればいろいろな職業につけることを知った
- 研究することの楽しさ、勉強をする大切さが分かった
今回の授業を通して、ウナギ研究者のキャリアだけでなく、夢に向かって努力することの大切さも伝えることができました。
『複業先生』だからこそ伝えられるメッセージ
今回の複業先生登壇授業では、ウナギの研究を行う板倉氏から、研究者の仕事の内容や研究者になった経緯について語られました。
板倉氏は授業の最後に「5時間目の話と6時間目の話でどちらに興味があったか?」と生徒に問いました。意見は分かれていたものの、興味関心を刺激することで、生徒たちの学びは深くなるそうです。
授業後には、直接質問する生徒も出てきました。研究者という身近に触れる機会が少ない職業の人と触れ合うことで、何か感じるものがあったのではないでしょうか。