2023年1月12日、旭川工業高等専門学校にて複業先生を活用したキャリア教育が行われました。
今回登壇してくださった複業先生は、IT企業で広報として活動している安立沙耶佳氏です。安立氏は、現代の多様化する働き方とこれからの社会で求められる人物像や、自身の好きな場所でパラレルキャリアを実現する働き方について語りました。
<複業先生プロフィール>
安立沙耶佳氏 IT企業広報担当 新卒で人材サービスを運営する企業に入社し、スタートアップ〜メガベンチャーを担当するリクルーティングアドバイザーに従事。その後、新規事業部門にて、ITエンジニア向けのWebサービスの渉外・ビジネス開発を経験し、2016年11月に福岡市に本社を置く株式会社ヌーラボに人事担当として入社。2022年10月からPR担当として社内外への広報活動に従事。
「働き方の多様化を伝えたい」先生方の想いを実現した授業の実施目的と依頼背景
機械システム工学科や電気情報学科などの工学系に特化した学科を設置する旭川高等専門学校では、卒業後の進路として建築家やエンジニアなど、専門的知識や経験を活かした職種に就く生徒が多数います。
しかし就職を機に、年々道内から子どもたちが離れてしまう問題が加速化しているそうです。また新型コロナの流行以降、リモートワークや働き方が多様化しているものの、学生には伝わっていない状況であるとも旭川高等専門学校の先生方は感じていました。
そこで今回は、「世の中には様々な働き方があること」や「今後身につけるべき力を知ってもらうこと」を生徒たちに伝え、就職に対して前向きに行動出来るような状態を目指すことを目的にキャリア教育の授業設計を進めました。
好きな場所でパラレルキャリアを実現する働き方を伝えた「授業概要」
▼授業概要
- 日付:2023年1月12日
- 授業時間:50分
- 開催方法:オンライン
- 講義形式:グループワーク形式
- 参加人数:40名
- 学年:高校3年生
- 設置区分:公立高等学校
- 複業先生名:安立沙耶佳氏
- 複業先生の職種:IT企業の広報
▼当日のトークテーマと授業コンテンツ
- 現代の多様化する働き方を体現する安達氏の仕事への価値観
- 安達氏が勤務するIT企業にある働き方ルールを当てるクイズ
- 働く=怖いと思う人のネガティブな心理が生まれるわけ
- 現代社会で必要となる4つのコミュニケーション能力
- 「テレワーク=幸せな働き方とは限らない」自分の将来を考える重要性
福岡のIT企業に東京都内からフルリモートで勤務|1年のうち2ヶ月は東京を離れる自由な働き方
授業の冒頭に、安立氏は「みなさんは『働く』ことにどのようなイメージを持っていますか?」と問いかけました。
生徒からは「他国に比べて給与が少ない」「ブラック企業」など、マイナスな意見が目立ちます。安立氏曰く、働くことに対してマイナスな印象を持っている生徒は多いそうです。
しかし安立氏の場合、年齢を重ねるにつれて生活の自由度が上がっていったといいます。「むしろ、中学生の頃のほうが厳しかったかも」と、自身の過去を振り返りました。
「社会人は、学生より時間もお金も自由に使えます。私にとっては、学生時代より今の方が生きやすい。だから、今日は社会や働くことに対するポジティブな面を伝えられたらと思います」と、安立氏はいいました。
続いて安立氏は、自身について語り始めました。
「現在私は、福岡のIT企業で人事経験を経て、広報を担当しています。しかし福岡には住んでおらず、東京都内に拠点を置いていて。フルリモートで働きながら、1年のうち合計2か月ほどは自宅を離れています。
また、SNS運用や研修業務などの副業にも従事していると語る安立氏。好きな場所で複数の仕事を持つ安立氏に、生徒は興味津々でした。
「働く」のマイナスイメージを覆す、IT企業にあるユニークなルールの数々
「私が本業として勤務するIT企業は、チャットツール等を開発する会社です。私含めて、社員の居住地は様々。海外ではオランダ・アメリカ・シンガポールの3拠点、日本では北海道から長崎まで全17都道府県にそれぞれ社員が暮らしています。フルリモートワークなので、居住地に関係なく柔軟に働けます。」
他にも、安立氏の企業にはユニークなルールや福利厚生があるそうです。
「私たちが1番楽しく働かないと、周りの人間も楽しくない。社員みんなが楽しく働ける制度をつくることは、元人事として大きな役割だと考えています。」
続いて安立氏は、自身の会社のルールに関するワークを始めました。
生徒に配られたプリントには次の10項目が記載されています。そのうち安立氏の会社の常識に該当しない項目を当てるという、ドボンクイズ(選択肢が複数提示され、最初に提示されたお題に合致するものを選択していく問題形式のひとつ)です。
- 今日は気分が乗らない。まだ15時だけど会議もないし帰ろう
- 子どもがWeb会議に乱入しちゃった!それでも大丈夫?
- テレワークに飽きたのでスタバで仕事しよう
- 今日はスプラトゥーン3の発売日!休もう
- 今日は子どもの誕生日。夕食を早めに一緒に食べてから仕事に戻ろう
- 私は夜型。昼間は気分がのらない。今日は24時から仕事しよう
- 子どもが熱を出した!病院へ行きたいので今日は3時間しか働けない
- 会社に言わず、勝手に石垣島にお引越し。後で報告すればいいや
- 年末年始の帰省ラッシュに巻き込まれたくない。最初の1週間は実家から仕事しよう
- カナダに住んでいる家族に会うために一時帰国。1週間ほどカナダから仕事をしよう
会社の常識に該当しない答えは、3. 6.の2つ。カフェでの仕事は、情報漏洩の観点からNG。24時からの労働は深夜労働に該当するため、認められないそうです。
「Nintendo Switchソフト『スプラトゥーン3』の発売日には、10名ほどの社員が休暇を取得していました。休暇は労働者の権利ですからね」と、明るく語る安立氏。ユニークかつ自由なルールの数々に、生徒たちは大変驚いていました。
テレワークが普及している現代で求められる「4つのコミュニケーション能力」
続いて安立氏は、「自身の企業が柔軟な働き方を採用している背景」を解説しました。
「私たちの仕事では、全員が同時に同じ場所に集まる必要がありません。だからテレワークが実現できるし、時差があってもなんとかなります。」
さらに、冒頭で触れた「働くことに対するマイナスイメージ」について再度言及しました。
「『働く=怖い』と思っている方の大半は、『コミュニケーションが苦手だ』といいます。でも、コミュニケーションという言葉自体、いろいろな意味を含むんです。」
安立氏によると、コミュニケーション能力は感受性・論理的思考・親和性・表現力の4つにわかれるそうです。
「かつてコミュニケーション能力というと、人と対面で話して上手に商談をまとめるイメージをもたれがちでした。一方で、私たちのようなシステム開発会社では、論理的な文章で適切に物事を伝える能力が大切になります。」
以前と比べてテレワークが普及している現代では、笑顔や愛嬌ではなく論理的なテキストコミュニケーションが求められているのだと、安立氏は説明しました。
「みなさんは、日頃からLINEを含む様々な通話アプリを使いこなしていますよね。現代で求められるコミュニケーション能力については、大人よりもみなさんの方が長けているのではないでしょうか。
これから社会に出るにあたって、みなさんにはぜひその能力を強みにしてほしいです。むしろ年上の方々に『こうしたらもっとうまく伝えられますよ』と言えるくらいの積極的な姿勢を持っていてほしいですね。」
最後に、授業の総括として、次のメッセージを贈りました。
「今回の授業では、働き方の一例としてテレワークを紹介しました。しかし、『テレワーク=良い・幸せな働き方』とは限りません。
私が伝えたいのは、『世の中はいろいろな働き方があると知った上で、自分にあったスタイルを選択してほしい』ということ。これからの選択権は、みなさんにあります。自分がどのような働き方をしたいのか想像をしながら、将来を迎えてください。」
「これまでになかった社会との接点をつくれた」高評価を得た先生や生徒の質問・感想
今回の授業を受けて、生徒からは様々な質問が寄せられました。
1つ目は、「副業として行っている先生の仕事は、教員免許が必要か」という質問でした。安立氏の答えは、「いいえ」。教員免許ではなく、社会人経験を武器に世の中の様々なことを子どもたちに教えているといいます。
2つ目の質問は、「SNS運用でお金をもらえるようになるために大切なことは何か?」。安立氏の回答は、大切なことは「自分がSNSをやっていること」「動画や画像などのクリエイティブスキルを持っていること」の2つです。
「正直、10代の方のほうがInstagramにきれいな写真を載せていることが多いですよね。まずは自分でSNSを運用し、フォロワーを伸ばしてみるといいと思います。」
安立氏は3年前からSNS運用の仕事をしているそうです。すでに当時からTwitter歴は10年を超えており、その経験を買われて仕事を任されたといいます。
「当時はSNSを長く使用している人材自体、あまりいなかったんです。1つのことを長い間突き詰めたという事実だけで仕事をいただけることも珍しくありません。SNSに限らず、好きな分野を突き詰めて成果を出しておくと、その後の仕事や働き方の幅が広がりますよ。」
また、学校の先生からは「授業の外部委託により、業務を効率化できた」と前向きな意見が寄せられました。
他にも「これまでになかった社会との接点を得られた」「学校だけでは難しい専門的な学習機会を得られた」など、複業先生だからこそできた授業に価値を感じていただけました。
『複業先生』に関してはまずはお気軽にお問い合わせを!
今回の記事は、独立行政法人国立高等専門学校機構旭川工業高等専門学校にて行われた、複業先生を活用したキャリア教育についてご紹介しました。安達氏のように、好きな場所で多様な働き方を実現する複業先生からのキャリア教育授業は、生徒の背中を一歩押してくれるでしょう。
今回の記事を読んで「他校の事例も見てみたい」「『複業先生』について具体的に知りたい」「学校の先生とのつながりをつくりたい」と思われた学校の先生方、まずはお気軽にご相談ください。