月に一度、LX DESIGN(以下:LX)で行われる社内勉強会のLX塾。
今回は、LXで複業先生アドバイザーとしてジョインした福田晴一(ふくだ・はるかず)先生に、「綻び始めた公教育 教員多忙化の背景は…『テクノロジー×多様性×連携』」をテーマに、これまでの教育の歴史から、現在、そして今後の日本教育に必要な要素等をお話ししてもらいました。
多様性のある生き方を体現する福田先生の自己紹介
東京都の公立小学校で40年間教員として勤められた福田先生。
その後は、杉並区立済美養護学校の教頭先生として3年間、アメリカ・フィラデルフィア補習授業校校長先生として4年間ずつ従事されました。この間に、多様性に溢れ個に応じた海外の指導から、日本の画一的な公教育を客観的に見る時間があったとのこと。
2007年からは、杉並区の和田小学校の校長先生に就任。和田中学校の藤原和博校長とタッグを組み、日本では先進的な教育に取り組まれました。その後は杉並区天沼小学校長を勤め、タブレットの導入やコミュニティスクールなどに積極的に従事しました。
教員退職後は、NPO法人「みんなのコード」未来の学び探究部主任講師、LXDESIGN「複業先生アドバイザー」、カスタマーハラスメント協会顧問、戸田市CSディレクター、佐野市CSアドバイザー、学校心理士、特別支援教室巡回アドバイザーなど多方面で活躍されています。
学校教員の多忙化が解決しない理由とは?
今回の勉強会のテーマである「綻び始めた公教育 教員多忙化の背景は…『テクノロジー×多様性×連携』」。
福田先生は、学校教育の中で教員が多忙を感じる背景には「テクノロジー×多様性×連携」があると述べます。とくに多様性の観点で公教育を見てみると、わかりやすい変化があるとのこと。
「ランドセルの色を例に取ってみましょう。昭和30年〜45年くらいまでは男子は黒色、女子は赤色の2色しかありませんでしたね。しかし、今は多種多様な色が、子どもたちの背中を彩どっています。画一性から多様性の時代になっている表れです。」
一方で学校現場と教師の業務内容で比較してみると、学校現場の不易さと流行がわかるとのこと。
「不易には、教える側と教わる側、黒板と教科書、給食、ランドセル、子どもを愛する心など今も変わらない要素があります。一方、空調や電子黒板、PCやタブレット、デジタル教科書の導入、日々忙しくなる教員業務などは流行にあたり、過去から今まで変化してきました。しかし、教室には机と黒板があり、廊下には紙の掲示物、前を向いて勉強する姿勢など変わらないインフラがあるのも事実です。」
また福田先生は教員のステータスで見ると、別の観点から物事が見えてくると続けます。
「昔の先生は、保護者・地域からリスペクトされていた背景もあり威厳がありました。同時に、それらへのリスペクトが先生の多忙も緩和させていたと思います。」
「今はリスペクトとは程遠い保護者からの批判・苦言により、多忙感と共に焦燥感を抱く先生もいます。それゆえ、過労ストレスで体調を崩し、休職・辞職する先生が増えているのも現状です。」
今の時代の教員に押しかかる過重労働には、さまざまな要因がありますが、ひとつに特別支援クラスの充実があると続けます。実際に、平成10年から令和2年度で不登校の数は1.5倍。通信教育指導対象児童・生徒が13倍。児童相談件数も11倍も増加しました。
特別支援クラスを充実させるためには多くの先生が必要になるものの、教員志望者は一向に増えない。その結果、教員に負担がかかる仕組みになっているのです。
また、インターネットによる民主化、GIGAスクール構想、プログラミング教育の導入などで教員としてやるべきことが増え、あまりの業務量の多さに務められない人が増加しました。そして優秀な先生、教育に熱い先生ほど、私立やスタートアップに転職してしまうのも、今の教育現場で人手が足りない大きな原因です。
これからの教育に必要なものとは?
福田先生は、これからの学校に必要なものとして「超スマート社会」「多様性」「地域学校・協働推進」があると述べました。
福田先生は「超スマート社会」においては、テクノロジーが急速に発展している世の中に合わせて、公教育の中でも情報活用能力、プログラミング教育が学校でもより強化されるべきと語ります。多様性では、「インクルーシブ教育」を通して障害者、外国人移民、ジェンダーへの理解を深めていく必要性があるそうです。
「そもそもインクルーシブ教育とは、障害のある子ども、障害のない子ども関係なく、同じ環境で学ぶ教育システムです。インクルーシブ教育が推進されたことで、教師は一人ひとりが必要とする合理的配慮をクラス全体で行わないといけないため、実際は難しいんですよね。」
「教室にいる子どもたちを、道路を走っている車に例えた時、早く前に進みたいADHDの特性を持ったスポーツカータイプの子もいれば、ゆっくり自分で進みたい自閉症の特性を持ったショベルカータイプの子もいます。」
「しかし、日本では同じ道路を走っているのだからと特殊車両を改良して、みんな同じ速度で走れるように教育してきたんです。」
そこで特別支援教育においても、一人ひとりの特性を生かしていけるように成長保証する教育「インクルーシブ教育」に注目が集まってきているとのこと。また福田先生は、「地域学校・協働推進」では開かれた教育課程を目指すべく、令和の日本型学校教育「コミュ二ティスクール」の重要性を述べました。
「公教育は公助です。しかし、公助のシステムを変えたいと思った時、予算を計上して法律・条例・規則を変えないといけないため、すぐには実行できません。2〜3年のズレが生じるんです。」
「スピード感がない公教育を支えるには、地域関係者の扶助・共助が必須です。今の時代の地域の扶助・共助の代表が『コミュニティスクール』にあたります。
コミュニティスクールは、保護者や地域のニーズを反映させるため、地域住民が学校運営に参画できるようにする仕組みや考え方を有する形態の学校。校長が作成するカリキュラムを申請したり、学校運営について校長または教育委員会に意見を述べたりすることができます。
福田先生によるとコミュニティスクールは、学校内での学習「支援」から、学校外での学習活動としての「連携」、総合学習で地域課題解決にあたる「協働」へ変化しているそうです。
勉強会の後は、ブレイクアウトルームに分かれ学んだことや感じたことを共有しました。最後に質疑応答の時間が設けられ、今回のLX社内勉強会は終了しました。
「開かれた教育」を目指すこと
今回のLX塾を通して「今まで何となく理解していた教育ワードの点と点が線でつながった」「教育の今の現場を知れたからこそ、LX・自分がやるべきことが明確になった」「歴史や教育の背景を知ることで、新たなきっかけを知る機会になった」などのさまざまな学びの声が挙がりました。
LX DESIGNは、社内向けだけではなく、勉強会やイベント、授業を通して教育と社会をつなげながら「開かれた教育」を推進しています。今後もLX DESIGNが主催するイベントにご興味ある方は、ぜひご参加ください。